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Impromptu 純子の思いつくままに
  ≪おもてなしのこころ≫               ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

     2006年6月16日 記

  またまたご無沙汰してしまいました。恐ろしいことに、気が付くと一ヶ月や二ヶ月があっと言う間に経過しているのですね。溜まっていた分を一遍に・・・というわけで、ちょっと長くなりますが、お時間があったらお付き合いくださいね。

その1

諸事が重なって、5月17日の<心のコンサート>への御礼もままならず、すっかり失礼申し上げました。お許し下さい。シリーズ第2回目も無事に、そして盛会のうちに終えることができました。本当に有難うございました。

聴いて頂きたい曲やお話が山ほどあって、限られた時間の中でどうマネージしようかというのが毎回の悩みですが、それも又楽し、といえるでしょう。8歳のモーツァルト作品のなかに熟成を感じ、そして21歳の作品に8歳のモーツァルトが顔を覗かせる・・・天才の音楽は私たちに予期しない驚きや喜びを与えてくれます。こんな素敵な<音楽の旅>をご一緒できるのは幸せです。河合隼雄先生はザグレブでモーツアァルトのフルート協奏曲を演奏していらしたばかりとのことで、お目にかかる度に腕前がグンと向上されています。お話の面白さはいつものことですが、先生の演奏に感心された方も多かったようです。

また、ピアニストの岡田知子さんと私の<音楽漫談>(当人たちには全くそんな意図はないのですが!)やプログラム構成も大好評を頂きました。本当に嬉しく思っています。 ただ、河合先生は最後までお付き合いくださるご予定でしたのに文化庁から緊急のお迎えで、演奏終了後すぐにお帰りになられましたことは大変残念でしたけれど・・・。

毎回お申し込みが定員を遥かに上廻り、涙ながらにお断りさせて頂くことが続いていました。次回11月22日(水)は、代官山・ヒルサイドプラザへ引っ越します(因みに、翌23日は休日です!)。こちらなら140名ぐらいの収容は楽々ですし、ベーゼンドルファーの素晴らしいピアノに良い音響、抜群の雰囲気で、ホール側のご理解もいただけて・・・といいこと尽くめ。やっと落ち着くべき所に落ち着いたかな、という思いがいたします。

ゲストは直木賞作家の篠田節子さんです。大変なクラシック音楽愛好家でいらっしゃり、音楽や音楽家を題材にした作品も執筆されています。チェロを嗜まれる(すごく下手で・・・とご謙遜されることしきりですが)ので、それなら彼女が楽しめる範囲でご一緒に「音楽遊び」もしちゃいましょう、とコンサート・タイトルそのままに『<ブラームスはお好き?>メドレー』を発案。友人の大山元(大三元)さん=私のHP内"Links"ページご参照ください=にピアノ・トリオ仕立て(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ)の編曲で、とお願いしました。大山さんとアレコレ相談をしながらメドレーの構成を練り上げていったのですが、意外性に富んだ、とっても面白い作品に仕上がったと思っています。楽しみにしていてくださいませね!         

 (提供:村田三雄さん)

その2

さて、<心のコンサート>シリーズでは(株)ダイエー会長であられる林文子さんのご厚意でお惣菜やお飲み物などのご支援を頂いていますが、その林さんが先6月9日にニューヨークのジャパン・ソサエティ(筆者注:1907年、日米間の理解と友好のために設立。第二次世界大戦後、大の親日家であったJ.D.ロックフェラー三世により、日本文化紹介と知的交流を目的としたプログラムがより一層充実された。)で講演されたのですが、タイミングよく私のNY帰還が間に合い、駆けつけることが出来ました。

法人組織対象の昼食会でしたので、会場には黒っぽいビジネス・スーツに身を包んだ日米のビジネスマン+ウーマンが一杯で、私のような"音楽家"なんていう人種は一切見当たらない・・・。異質な世界に飛び込んでしまったような居心地の悪さでしたが、林さんとは普段、個人的なお付き合いでお話をしていても公の場での講演は一度も伺ったことがなかったのです。そんなわけで今回のランチョンは楽しみでもありましたから、会場の雰囲気になんか気負けしないぞ、とばかりに見ず知らずの人たちの中に紛れ込んで名刺交換までしちゃって(相手方は、"ヴァイオリニスト!?"−なんてビックリでしたが・・・)、お話を伺ってきました。いや〜、この方は人間の出来が違う・・・やっぱりすごいなぁ、というのが真っ直ぐな感想。何がすごいって、どんな逆境にあっても、ものの見方、考え方がすべてスーパー・ポジティヴ。しかも心底に人間としての優しさ、温かさが満ち溢れている方なのだ、ということを再認識したのです。

林さんがフォルクスワーゲンやBMWといった車販売会社で販売台数を倍増し、それぞれの会社建て直しに成功してこられたことは余りにも有名です。その経営の辣腕を買われ、大負債を抱え、"待ったなし"の再生を余儀なくされている(株)ダイエーより昨年、会長として迎えられ、大奮闘されています。今や日本のメディアで引っ張りだこ。出版する著書はすべてベストセラー入りなのですから、いや〜、それはやっぱりすごい!・・・としか言いようがありません。

そもそも車のセールスに携わるきっかけは、ご主人と初めて車を買われた30年ほど前に遡るとか。その時のセールスマンがとってもおとなしい男性だったそうで、彼にセールスの仕事ができるのなら私にだって出来るんじゃないかな、と思われた。女性の車セールスマン(今流に言うなら"セールス・パーソン"ですね)なんてほぼ存在しなかった当時ですから、断られても断られてもディーラーの社長さんにお願いに行き、ついに働く機会をもらうことが出来た。林さんにはセールスの体験など全くなかったにも拘らず、社長さんは営業の仕方(車の売り方)についてはひと言も触れず、ただ、車が売れたときに記入する書類の書き方と、もし売れたら、車は"必ず自分の手で洗って"お客様にお届けするんだよ、と車の洗い方を教えてくれただけだった、と。何気なく会場を見渡したけれど、「そりゃそうでしょ」「みんな苦労してるんですよ」「で、どうしたの?」という空気しか感じられなかったのですが、彼女が「その時、私はこの社長さんから、営業とは自分で学び取るものであって、"人から教えてもらうものではない"ということ、そして車を売るということは単にモノを売るのではなく、"お客様に<夢>をお届けすること"なのだというセールスの一番大切な基本を教えていただいたのです・・・」と仰った途端、会場の聴衆たちからアッという声なき声が漏れたような気がしました。

"教えてくれない"ことを不満に思うのでなく、自分で考えて工夫するものだ−という最も大切な基本を"教えて頂けた"ことに感謝する・・・林さんのこの受け取り方ってやっぱり非凡です。世の中では"教えてくれないから出来ない""教えないのは不親切"という受け取り方が一般的で、"上達しない"のも"やる気が芽生えない"のも教えてくれなかったから−なんていう反応が当たり前なんじゃないでしょうか?

林さんの非凡さはそれだけでは留まらないのです。セールスを始めてわずか2ヶ月目には彼女はそのディーラーのトップセールスに輝いてしまうのですね。もちろんそこに到達するまでの彼女の努力たるや並ではなく、毎日100人の方々とお話をすることをご自分に果たし、そして、セールスのために訪問する相手の方の"用足し"(御用聞き的役割)まで引き受けて走り回られた。それは「セールスのために一方的に訪問して車のお話をすることは、相手の方の貴重な時間を頂戴してしまっていること。だからその方たちに"恩返し"する意味でも彼らが喜んでくださる、ありとあらゆることをさせて頂きたい・・・」という心からの願いがあったから。そして、「色んなことをさせて頂いている内に、自分が車を売るために働いている・・・なんてこと、すっかり忘れてしまっていました」と。聴衆はもう彼女の人間としての"あり方"に圧倒されていました。

文化や人種、言葉が異なっても「人間の本質」は何処に行っても通じるものなのです。
合理化による無駄をカットした経営収支が最も大切とされるビジネス界(私も同じことをしているんですよ、とご本人が言っておられましたが)に≪おもてなしのこころ≫を持ち込み、ビジネスは結局は人、"人のこころ""やさしさ"が何よりも大切−と説かれる姿勢は、車のセールスに携わっていらした時から一貫しているのですね。この彼女のあり方は、ニューヨークという熾烈なビジネス社会で戦っているビジネスマン、ビジネスウーマンたちの心をも強く掴み、感動を与えていたことは目に見えて明らかでした。

実は私、<心のコンサート>のために毎回、ダイエーからお手伝いにいらして下さる社員さんたちの品格・お人柄の素晴らしさに感動しているのです。経営企画本部の部長さんでおられるのに、ご自分の車を駆使してお料理の運搬・搬入から最後の「ゴミ捨て」に至るまで、嫌な顔ひとつなさらずに我スタッフの人たちと一緒になって働いてくださるのです。お話していても心配りに溢れた"優しさ"が漂ってくる、って感じの方で、本当に申し訳なく、勿体無くて頭が下がるばかりですが、林さんがビジネスの原点として最も大切にされている≪おもてなしのこころ≫をそのまま体現されている・・・といえるのかもしれません。林さんは、"ダイエーには優しくて、思い遣りのある社員さんたちが多いのよ。創始者の中内功さんの社員教育が行き届いていて素晴らしかったのよね。"と仰います。戦後の物のない時代にいいものを一律に安く日本中の家庭に届ける−というダイエーの総合スーパー経営方針が功を奏し、最盛期には小売業界で老舗の三越を追い抜いて日本のトップに躍り出たとか。しかし、21世紀の今、世の中にはモノが溢れ、総合スーパーの時代ではなくなってしまった・・・カテゴリー・キラー(専門店)の進出で、ただ大きくて、同じものばかりを扱っていたのでは生き残っていけない。その土地土地、文化、生活している人々に適った品物をお届けすること、独自のブランド展開が望まれている。今や人々が求めているのは"こころ"であり"やさしさ"であり、すべてはお客様が第一である、というのが林流ビジネス。近頃の風潮である"お金第一"主義とは一線を画します。

大負債を抱えたダイエーの再生を任された林さん。その任務はとてつもなく重く、大きいけれど、彼女のポジティヴな姿勢と溢れんばかりのエネルギーは周りの人たちをどんどん巻き込み、必ずいい結果を引き出していくことでしょう。「出会う人は全てわが師」−作家・吉川英治氏の言葉を引き合いに出され、私の人生は正にそのものです、と語られる林さんの人間性は本当に尊く、この彼女の話に惹き込まれていたのがニューヨークを基盤に丁々発止と大活躍のエリート・ビジネスマンたちであった・・・というのが何とも嬉しい限りではありませんか。


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