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Impromptu 純子の思いつくままに
  <近頃のアメリカは・・・> 〜 クリスマスの日に〜 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

2008年12月25日

  早いですね、もう2008年も残すところ僅かです。皆様の一年は如何でしたか? 私の一年は・・・そうですね、私生活では家の改築・引越しを含め「変革」の時期とでもいうか、ひとつの「節目」に差し掛かっている、という思いがしますね。

来年には初のAfrican-American大統領が実現するという、歴史に刻まれる大挙を成し遂げたアメリカ。先日、TVの あるコマーシャルで流れる次期大統領オバマ氏の演説を聴き、何故今彼がアメリカの指導者として選ばれたのか、改めて納得できたように思いました。

"考えて御覧なさい。月に人間を送ることが出来たアメリカなのだから、(この経済不況のもとであっても)5百万人分の雇用を作り出すことだって可能なはずだ・・・我々に「不可能」などあり得ない(とまで言っていたかどうか定かじゃないけれど、そんなニュアンスでしたね)" ふぅ〜む、実にpositiveで optimistic な思考の持ち主。この混沌とした現状をnegative には決して受け取らないのですね。だから人種偏見の分厚い壁も超えてしまった。確かに positive思考には人々を苦境から救い上げる力があると思います。

久し振りに会ったアメリカ人の知人が、"う〜ん、いよいよアメリカン・エンパイアは消滅するんじゃないか、って気がするよ。嘗てアメリカは皆の夢を叶えていた・・・素晴らしい車だって作ってたんだよ・・・なんて全部昔話になっちゃいそうだね。イギリスだって然り、だからね。しかしそれに比べ日本は沈没し掛けたって必ず bounce back するよね。大した国だよ・・・"なんて言っていて、そうか、彼ら結構自信失ってるんだ、って驚きました。

オバマ氏が語る"希望に満ちた"未来を創造するには、現政権8年間の不徳から生じた大荒波に呑み込まれないよう、相当の覚悟で闘わなくちゃなりません。それにしても当のブッシュ大統領やチェイニー副大統領には反省の色など一切無いのですよ、まったく。 金融機関に設けられていた規制を"なし崩し"にしたことが経済危機に繋がったのではないか? その責任をどう感じているのか? ― というマスコミの質問に対し、"自由経済のもとでは、いい事も悪いことも何事も起こりうる"なんて、無責任な返答をしゃ〜しゃ〜と繰り返しているんですから性質(たち)が悪い。

その現政権を擁護してきた人々にとって、今は苦渋の日々。"ブッシュ大統領はよくやったと思うよ。だって9・11のテロ以来、この7年間はアメリカの安全はシッカリと護られてたんだから。運悪くもウォール街の大騒動が起こらなければ、マッケイン候補が勝っていたはず。ブッシュ大統領の真価はいずれ歴史が語ってくれると思う・・・"なんて真顔で話すのだから、私としては身の置き所が無くなる思いであります。

しかしね、こういう人たちは実に善良で、真摯なクリスチャンなのです。"この頃ね、gratitude (感謝の念)について考えるのよね。私たちは本当の意味の、心の底からの「感謝」を感じながら生きているのだろうか、って。この間、身障者の子供たちに Art を教えるプログラムがあって出席したのだけれど、プロのアーティストたちが(目が見えなかったり、手足の自由が利かない)子供たちの手を取り足を取り、体一杯使って自分たちの感情を表現することを体験させていたの。子供たちの表情が見る見る変わってね、喜びが体中からほとばしり出した。私は有難いことに五体満足で、人々の役に立つことだってできる・・・これ以上の感謝ってあるかな、って思ってね・・・"

日一日と悪化していく経済情勢。アメリカの三大自動車産業が赤旗を揚げ、成功のシンボルだったTOYOTA までもが大幅赤字を申し立ててアメリカ国民を驚かせた。更に22日には、シュワルツネッガー・カルフォルニア州知事が"カルフォルニア州にはあと70日分のキャッシュしか残されていない。破産しないためには予定されていた公共事業工事の取り止めや、ありとあるゆる公の業務を縮小しなくてはならない。オバマ次期大統領は仕事を作り出していく、と宣言しているが、我々は仕事を減らしていかなくてはならない。実に皮肉なことだ・・・"と声明を発表。

人々に逃げ場を与えない勢いで不況の波が押し寄せてくる・・・アメリカ発の政治・経済不祥事は、想像を絶する形で世界中をも恐慌の渦に巻き込み、まるで地中のマグマが限りなく噴出するかの如し、なのです。世相が悪くなると人間の心にも悪魔が忍び寄るのか、正視に堪えかねるような事件も矢継ぎ早です。

このところ連日、新聞・テレビのニュースを独占しているのが Blagojevich(ブラゴェヴィッチ)& Madoff(メィドフ)の両氏。前者はイリノイ州知事ですが、オバマ氏が次期大統領に就任することで空席となる上院議席を"極秘・競売"(!)にかけようとした容疑事件。

アメリカでは何故か州知事に(任期満了前に)空席となった議席の後任者任命権限があるそうで、それを自分の利権と勘違いして"一番高い値をつけた bettor(賭けをする人)に議席を与える。 I want to make money, you know? " なんて凄まじい会話を録音されていた品格卑しい人物。「Blagojevich降ろし」が表面化し、非難轟々の中、"私は何ひとつ法律を犯していない。最後の最後まで身の証をたてるために闘う。I will fight. I will fight. I will fight…"なんていう宣言をしていました。やれやれ・・・

そして後者は philanthropist(慈善家)としても知られていた経済界の大物。彼が率いるファンドは、マーケットがどんなに荒れようと変わることなく必ず一定の高利率で配当が約束されている − ということで、資金を増やそうとする大投資家たちが彼の周りに群れを成していたそうな。今回のサブ・プライムローン問題から始まった経済危機で資金引き上げが生じ始めたことが引き金となり、実は「絵空事」ビジネスでしかなかったことが露呈。彼が引き起こしたPonzi scheme(ポンズィ・スキーム)は、前代未聞のスケールに発展しています。 Ponzi? なんじゃ、それは? とお思いでしょう? 日本で言えば「ネズミ講」に当たるのかな? この命名は、20世紀初頭のアメリカでCharles Ponzi というイタリア系の人物が引き起こした詐欺事件によるものとか。

「ネズミ講」の仕組みはご存知かと思いますが、例えば"自分に投資したら1ヵ月後には倍にしてやる"と言って二人の投資家から100ドルずつ募り、その200ドルはシッカリと自分のポケットへねじ込むのが第一ラウンド。しかし約束どおりに彼らに「倍」にして返すためには何処からか400ドルひねり出さなきゃならない。そこで次の4人の投資家を騙すのが第二ラウンド。こうして倍倍ゲームを繰り返すことでビジネスを広げつつ、自分はどんどん金太りしていく・・・という悪人たちの話は日本でもよく耳にしますよね。NYタイムズ紙の記事によれば、第10ラウンドに至るには1,024人、更に第18ラウンドとなると実に25万人もの投資家を集めることになるのだとか!

こんな具合に永遠に投資家(詐欺の犠牲者!)を募り続けていけるのなら問題は無いのだろうけれど、何せ実体の無い"架空ビジネス"なのだから穴埋めがポシャれば必ず行き詰る。小さな町での出来事なら、雲行きが怪しくなったら鞄を畳んで汽車にでも飛び乗り、隣町へでも逃げれば捕まらずにすむ・・・そういえば、イタリアン・ロマン派オペラ開拓者の一人、ドニゼッティ(Gaetano Donizetti 1797-1848)の代表作、『愛の妙薬』に出てくるイカサマ薬売り(この薬を飲むと、自分が思いを寄せる人との恋が叶う−という触れ込みだが、実は ただの安ワイン。主人公のネモリーノは恋人からの色よい返事を貰えずに"愛の妙薬"を買って飲むが・・・アハハ、効く筈ないよね〜)も、この手の商売人でしたねぇ。まぁ、このぐらいならご愛嬌ですが。

Mr. Ponzi の場合は、(国際郵便為替を利用した?)「さや稼ぎ」の大きな夢を、ある時点で正当な商売に転化できるのではと真剣に考えていたそう。だから、イタリアへの新婚旅行を取り止め、ローマから母親を呼び寄せてアメリカの地にしっかりと根を下ろしてしまった。稼いだお金を持って早々に新婦と共にイタリアに逃亡していたら、「ネズミ講」の代名詞にまでならなかったかも???

話が逸れてしまいましたが、今回の事件は何せ「桁」がすごい。想定被害額は 50 billion dollars(私には数えられない!換算は読者にお任せで〜す)になるだろう、とは事件の中心人物、Bernard Madoff(バーナード・メィドフ)氏の言。被害者リストには、映画監督・プロデューサーのスティーヴン・スピルバーグ氏やアラブ、アメリカの名だたる財団、Tufts University、Yeshiva Universityといった大学の基金、Banco Santander(スペインの銀行)、Bank Medici(あのメディチ家?!オーストリアの銀行だが、ヨーロッパや世界中の顧客を抱えている)、韓国の生命保険会社、野村證券・・・と錚々たる名が連なっています。

詐欺の実態が明るみに出るまでに実に20〜30年を要し、その間「名士」として世界のインテリたちを欺き続けた才覚は抜きん出ていますね。 ま、私のような者には縁が無い事件とはいえますが、このような大金がらみの犯罪を見ていると、(仏教でいうところの)人間の<三悪>: "貪・瞋・痴"(どん・じん・ち=むさぼり・いかり・おろか)が次から次へと発露しているように見受けられてなりません。「欲」とはここまで人々を盲目にさせるものなのか、と改めて生まれた持った人間の"性"(さが)について考えさせられる、この頃なのであります。

又もや暗い話ばかりで・・・次回はもう少し明るい話題をお伝えしたいものです。 実に住み難い世の中となりましたが、世の中を構成しているのは私たち一人一人なのです。Positive に生きて行こうではありませんか。 どうぞ皆様、ご健勝にて良いお年をお迎えください!!


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